21:年が変われば―

 いやはや、いつの間にやら今年ももう十二月…年の瀬ですね。
 一年の最後となるこの月は、ゆく年を振り返ったり、来る年をどんな年にしたいかなどと、自分の生き方を省みる気持ちになりやすい季節です。
 この一年はあなたにとってどんな年でしたか?
良いことの方が多かったなら何よりです。-はい?ああ、残念ながらあまり良い年じゃなかったと…では、来年は良いことの方がたくさんになりますように。

 今年…2011年を振り返った時、真っ先にうかぶのは東日本大震災です。理不尽な大災害に、被災地の方々は大変な苦しみを強いられたことは言うまでもなく、故郷であるこの国の惨状に多くの人がこころを痛めました。
 復興の道を進んでいるとはいえ、いまだ厳しい生活を余儀なくされている方が大変多くいらっしゃいます。それでも生きようと懸命になられている姿には、生に向かう人間の強さを感じさせられるとともに、その内側にどれだけの苦しみや悲しみを抱えているかも想わずにいられません。

 一方で、時が経つにつれ現地にいない私たちは、震災をめぐる恐怖や被災された方々への悼み、思い遣りの気持ちを抱く時間が減ってきているのが正直なところではないかと思います。
 歩みが遅くとも必要な支援は始まったからとか、自分の生活を送るので精一杯とか、理由はさまざまでしょう。
 また、支援するためにはお金なり体力なり気力なりの余裕が必要ですから、そのために心身ともに健康な生活を送る努力もやはり大切です。本当に苦しんでいる方を手助けしようという時に、元気や余裕がある人がいなくては始まりませんから。

 でももう少し、じぃっとこころの奥底をのぞいてみると、考える時間が減っているのには、“罪悪感”や“無力感”という苦しい気持ちが潜んでいる場合もあるんじゃないかと私は思います。
 言葉も失うほどの災難に見舞われた方々をこころから思い遣るのも本音ならば、(わが身じゃなくて良かったと)難を免れた幸いに安堵する部分があるのも本音です。また、傷つきを目にして「何とか力になりたい…でも大したことはしてあげられない」と自分の無力さを歯がゆく感じるかもしれません。
 そのような安堵する自己中心的な自分や無力な自分に嫌悪感や失望を抱き、困難な状況にいる方々に申し訳なく感じたりするのです。
 これらの気持ちは苦痛な感覚を伴うため、人のこころは色々な手段でその痛みを和らげようとします。考えない、思い出さないことも手段の一つです。
 先に述べたような、震災について考える時間が減っている背景には、苦痛を回避しようというこころの働きに
よる面もあると思われます。それもまた人間のこころの、ごくふつうの在りようでもあるのですが。このような心の在りように気づくことが第一歩になるかもしれません。
 そしてまた、考えよう、忘れっぱなしにならないで思い出し、出来ることあらば出来る範囲ででも行動しよう、とするのも同じ人間だったりするのです。
 誰からも忘れ去られるということは、途方もない絶望と孤独を感じさせます。たとえ時折であっても、ささやかであっても、思い出して、思い遣りを何らかの形で示されることが、理不尽な不幸から生き抜いていく希望の種になるかもしれませんから。



――前の行で終わろうと思っていたのですが、「希望」という言葉からある映画のワンシーンを連想したので、もう少しだけお付き合いいただいてもよろしいですか?
 高級ホテルの大晦日を舞台にした『THE有頂天ホテル』(三谷幸喜監督,2006)という作品で、ホテルのスタッフをはじめ、宿泊客、イベントに出演する芸人…等々、大勢の人物が登場する群像喜劇です。
 主役は、夢に挫折した過去を持ち、仕事は出来るが空しさを抱えている副支配人(演:役所広司さん)なのですが、視点を変えると登場人物の誰もが主役のような、オムニバス的な映画でもあります。
 さてさて。連想したのは、コールガール(演:篠原涼子さん)の言葉です。大変図々しい性格だけれども、茶目っ気たっぷりで憎めない女性です。
 寒風吹きすさぶホテル屋上、窮地に立たされて自殺を仄めかす悪徳政治家(演:佐藤浩市さん)に対して、彼女が

 「 何のために大晦日があると思うの?-明日から新しい年になるの。年が変われば、良いこともあるわ 」

と、夜空を見上げながら言うんです。このせりふ、何気ないようで、すごく重みを感じませんか?
 彼女は若くて美しく、ある種の賢さも備えた女性です。だのに、売春で生計を立てなければならず、しかも大晦日にまで客を取ろうと必死にホテルに潜り込もうとして。相当な事情を抱えているだろうことは容易に察せられます。
 傷ついた自分自身を励ますニュアンスも感じますし、また違う解釈もできると思います。  
でも、私が彼女の言葉から一番強く感じたのは、人間のしぶとさと優しさでした。

 人が苦境からどうにか立ち上がって生きていくためには、“希望”が必要なのです。
 そして、もし希望を持ちたくても持てないで苦しんでいるならば、「希望を持ちたい」というかすかな、でも確かな、希望の灯火を信じてあげてください。

(O2)
2011.12.01

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