49:パーソナリティ障害とその家族

 パーソナリティ障害とは、その人の全人格に関わるような心理的な障害のことです。この障害をもつ人は心の問題に悩み、不安を抱え、感情のコントロールが上手くできず、日々苦しみを体験しています。それは一時的なものではなく、人によっては子どもの頃から続いています。大抵は少しずつ積み重なった問題が思春期頃から表面化し、学校や職場での不適応をもたらします。こうした人たちの行動は周囲をトラブルに巻き込むため、事件や事故に発展することもあります。特にご家族はそれらの問題に関わらざるを得ず、様々な面で悩むようになります。

 近年ではそうした「家族についての悩み」を抱えて、カウンセリングや心理相談の場に訪れる方々が増えています。自らの心の問題で困っているというよりは、子ども、夫や妻、兄弟姉妹、両親、舅姑や子どもの配偶者など、家族や親族と上手くいかないことに悩み苦しみ、解決方法が見つからず散々迷った末に、専門家の意見を聞きに来られるのです。

 相談者の方の多くは、その人のために長いこと多大な努力を重ねてきています。話を聞いて助言し希望を叶え、できるだけの援助を続けています。時には課題を提示し、厳しい意見を伝えて立ち直りを促そうとします。にもかかわらず、その人は不満や怒りを持ち続け、一層激しい攻撃を向けてくることさえあります。相談者の方は途方に暮れ、「もしかしたら自分のほうが悪いのではないか」と悩み始めます。「自分のほうがおかしいのだろうか」「自分のせいで相手はこうなっているのか」と考え、しばしば強い不安を抱くようになります。

 この時点で話を聞いた我々専門家は、「問題を抱えるのはこの相談者の方ではなく、その人のほうではないか」と気づきます。その行動には、パーソナリティ障害の典型的な特徴がみられるからです。中でも「悪いのは私ではなく、あなたのほうだ」と相手に思わせてしまう行動様式があります。そこには「投影同一化」と呼ばれる心の働きが作用しています。

 「投影同一化」とは自らの心に生じた痛みや苦しみを相手の心の中に投げ込み、あたかもそれが相手から生じたように体験させる機能のことです。例えばその人が「私のこと、恨んでいるでしょう?」と囁きます。こちらには全く覚えがなく「そんなことはない」と応えると、「そんなはずはない。あなたは私を恨んでいる。私にはわかるし、いつもあなたが私に嫌なことを言うのは、恨んでいるからだ」などと返してきます。反論すると、さらに「どうしてあなたは自分の気持ちに気づかないの?そうやって私をもっと苦しめているのに」と泣き崩れます。そんなやり取りを繰り返すうちに、次第にこちらは自分の気持ちがわからなくなり混乱します。最終的には「自分でも気づかないうちにこの人に恨みを向け、傷つけていたのかもしれない」と自身を責めるようになります。

 このような投影同一化の機制を用いて、自分の中で処理できない心の問題を相手に背負わせるのが、パーソナリティ障害の人たちです。この障害をもつ人のご家族がすべきことは、彼らを心の治療の場に導くことです。それが難しい場合でも「自分が悪いのではなく、この人が苦しんでいるのだ」と気づくことが、問題解決の第一歩となります。


 人が生きる上で人間関係の悩みは尽きないものですが、この障害をもつ人たちの存在を知ることで、互いに苦しみから抜け出す方法を見つけることができるかもしれません。真に苦しんでいるのは誰なのか、正しく理解することが大切です。人との関係に困った時に専門機関を訪れることで、これまでは見えていなかった問題が明らかになることもあるのです。

(松井)
2014.05.01
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