39:カウンセラーは何故アドバイスをしないのか?

 カウンセリングやセラピーの多くは、悩んでいる相談者の人に具体的なアドバイスをしないものです。カウンセラー(セラピスト)の考え方により、敢えて意見やアドバイスを伝えることもありますが、一般的にはそうせずに相手の話に耳を傾けることを重視します。
 現代は精神的な課題や悩みを抱え、一刻も早く改善したいと願う人で溢れています。アドバイスに限らず具体的現実的な手助けが必要なのに、カウンセラーは話を聞くだけで何もしない、それに一体どのような意味があるのか、という疑問や不満の声をしばしば耳にします。

 では何故多くのカウンセラー(セラピスト)はそうした行動に出ないのか。それには理由があります。例えば相談に来た人が「私の考えは間違っているでしょうか?」と尋ねた場合、違うともそうだとも言わずに話を聴き続けます。不安になっている人に「大丈夫」と伝え安心してもらうことは、良いことでしょうか。それはその人が生きやすくなることにつながるでしょうか?
 もしカウンセリングで大丈夫と保証してもらっても、その場を出たら周囲の人にも同じように言ってもらえるとは限りません。「あなたは間違っている」と批判されるかもしれません。その時「カウンセラーはそう言わなかった。だから自分は間違っていない」と思えるのなら、その人は心の治療に来る必要はないのです。何故なら親しい人や身近な人に「大丈夫」と言ってもらえば充分で、わざわざカウンセラーを頼る必要はないからです。

 私たちの役割は相談者の方に満足感を与え、あたかも不安が存在しないかのように保証することではありません。こうして一時的には穏やかな気持ちになっても、放っておけば時間と共に満足感は薄れ、不安は再びじわじわと沸き上がってきます。
 この不安を心に抱えながら、少しずつ自分の中に引き受けていけるよう手助けするのが、私たちの役割です。何故それほど辛いのか、いつからそうなのかを問いかけます。心の中で起きている真実は何なのか、絡んだ糸を解すようにひとつひとつ整理していきます。

 この過程を経ずに「大丈夫」と応えれば、心の中で起きていることは明らかにされず闇の中に葬られます。不安の正体は見えないまま、蓋を被せて放置されます。しかし強い風が吹けば蓋は剥ぎ取られ、冷たい雨に打たれて心は悲鳴をあげるでしょう。表面にだけ蓋をしても、ストレスに見舞われればあっけなく外れてしまうのです。

 人の心は思いがけない強さを備えています。不安の正体が徐々に姿を現し、それをカウンセラーと共に正面から見据え、観察し、話し合ううちに、その人は不安と共に生きる道を歩み始めます。
 自分の心の真実をみた人は、揺れ動きを感じながらも生きていけるようになります。不安は様々に姿を変えながら小さくなることもあり、時には希望に生まれ変わることさえあるのです。

 カウンセリングは表面的なアドバイスはしないものの、その人が気づいていない心の動きを見出して焦点を当てることがあります。訓練を積んだ専門家として、一歩踏み込んだ心の理解の視点を提供します。
 カウンセリングやセラピーはただ話を聴くだけではありません。すぐに満足できるような効果は感じられなくても、本質的な心の変容を目指す専門的な治療の場だと私たちは考えています。



(松井)
2013.07.05

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