12:心の復活のために

この度の震災で、日本はこれまでの日常から一転してしまいました。たくさんの命が奪われ、多くの人々が家族や親戚や友人、住まい、職場、住み慣れた町までも失いました。その人々は今も苦難の日々を送っており、直接被災しなかった人々も、メディアから流れてくる凄惨な現状を目の当たりにして、強いショックを受けています。多くの人が深く傷つき、憂い、いたたまれない気持ちになっています。国全体がこれほど大規模な喪失と外傷に見舞われるのは、かつてない危機的な事態です。

こうした危機に晒された時、人の心には様々な反応が生じます。衝撃と驚きに茫然とする、嘆きと悲しみに打ちひしがれる、耐え忍びやり過ごそうとする、怒りや苛立ちを爆発させる・・・これらはどれも、傷ついた心を守ろうとする大切な働きです。このような心の動きが順を追って起きることもあれば、一気に押し寄せてくることもあります。混乱と苦しみが心を襲うため、身動きできないほど疲労を覚えることもあるでしょう。おそらく現在は、極めて多くの人々がそのような心の状態にあります。危機的状況にある人々が集まり、身を寄せながら生活しているわけです。人によっては「毎日を送るだけで精一杯」だとしても、無理もないことといえます。

このように苦しい状態から抜け出すためには、心の痛みを吐き出すことが必要です。苦しい時に「苦しい」と言葉にすることは、実は非常に大切なことです。心の痛みに蓋をして気丈に振る舞い続けていると、その傷が心の奥深くに押し込まれてしまうことがあるからです。表面的には立ち直ったように見えても、深いところに痛みや苦しみが沈殿しています。その状態で無理をし続けると、何かのきっかけでそれが突然蘇り、強い勢いをもって心に襲いかかることがあります。忘れていたはずの辛い状況がフラッシュバックし、あたかもそれが目の前で起こっているかのように体験されます。やがてこの反応が繰り返されるようになると、傷の修復のために専門的な治療が必要となります。一般的にはこのような外傷体験を長く放置すればするほど、治療にかかる時間も長くなると考えられています。ですから危機的な状況で生じた心の苦しみは、できるだけ早く心の外に出すことが重要なのです。

被災地で今なお厳しい状況に置かれている人々も、それを見守りながら心を痛めている人々も、何らかの形で心の傷を受けています。この傷をそのままにせず、安全で信頼できる環境で、誰かに話したり何かの形で表現したりすることを心がけたいものです。そして誰かが話を始めた時、今度は自らが聞き手となり、その言葉に耳を傾けることができれば何よりです。こうして人々が互いに語り合い、自身を表現し、心をつなげていくことが、痛みや苦しみを少しずつ修復していきます。我々がこれまでにない危機的状況を乗り越え、立ち直っていくために必要なのは、人と人とのつながりです。人の心が癒されて復活に向かうために、今や人が互いに心をつなぎ合わせていくことが求められているのです。

(松井)

2011.04.01