13:からだが語る気もちシリーズ2 「自律神経」

「自律神経失調症」という病名を耳にすることがあります。しかし、実のところ、「自律神経失調症」は正式な病名ではないのです。患者さんに説明するにあたって便宜的に使う医師が多いようです。では、この「自律神経」とは、そして「自律神経失調症」とはどんな状態を指して呼ばれるのでしょうか。

自律神経とは「交感神経」と「副交感神経」の二つの系統に分かれています。体温や血圧を維持したり、胃腸の働きを調整したり、わたしたちが自分では調節出来ない臓器がバランスよく働くようにする神経のことです。交感神経は、主に緊張や興奮をつかさどります。戦いに向かう時の状態を想像してみましょう。心臓はドキドキして、かーっと汗をかきます。このとき血圧は少し上がります。副交感神経は、その逆で弛緩、消化などをつかさどります。リラックスしているとき、身体の緊張は緩んでいます。食事の後すぐ運動しない方がいいと言われるのも、ゆったりしているときに消化管はよく動くからです。眠っているときも副交感神経が主に働いています。この二つの神経系統がバランスよく働くことで、わたしたちは活動したり休息したりしているのです。日常においても、緊張や興奮していると(たとえば重要なテストの前の日を思い浮かべてみましょう)交感神経が強く作用してドキドキして眠れず、次の日の朝にバランスをとろうとして強く働いた副交感神経による消化過剰で下痢になる。つまり、この身体の症状は何を語っているかというと「うわー、テスト緊張する、ちゃんとできるか不安!」と翻訳できるでしょう。こういう体験は皆さんにも覚えがあることではないでしょうか。

この二つの系統のバランスが崩れるとどんなことが起こるでしょうか。身体のあちこちに不具合が起こります。血圧の調整がうまくいかない~立ちくらみ、リラックスがうまく出来ない~不眠、動悸、消化管の不具合~便秘、下痢、胃もたれ、などです。このような体の症状がいくつか訴えられているが、明らかな身体の病気が見当たらない場合に、「自律神経失調症ですね」と説明されることが多いようです。つまり、自律神経の調節やバランスが崩れてしまっていると言う意味です。

3月11日の震災の後、このような症状が多くの人に出ていました。死を身近に感じるような恐ろしい体験や、追体験するような映像・情報に多く接したためです。危機的状態では、交感神経が常に働いているので、自律神経のバランスをうまくとることが出来なくなり、結果として不眠や絶え間ない不安感に悩まされてしまいます。これらの事件や天災の後に起こる症状は、生活が落ち着けば一月ほどで自然と改善すると言われています。

では、なるべく早く落ち着くにはどうすればいいのでしょうか。先月のエッセイでも書かれていますが、安心出来る場所で自分が経験した恐ろしさや悲しさを言葉にすること。そのような環境が得られなければ、なるべく規則正しい生活を送ることです。

本来身体が自然に行っている緊張~リラックスのリズムを、生活のリズムから思い出させるのです。食事を同じ時間にとり、夜はよく眠れなくても大体同じ時間に横になって身体を休めるようにします。緊張していると手足が冷たくなるので、足湯などで温めるのも良いと思います。身体や心はなるべく元の状態に自ら戻ろうとする力をもっているのです。

そのような生活の基本的な安全すら失われてしまった方たちのことを思うと心が痛みます。一日も早く安全で穏やかな日々が回復するよう祈念しています。

(鈴木)

2011.05.02