32:出会いの場面にて ~日常の風景から④~
親友のA子とB子は2人仲良く就職活動中です。先日、そろって会社説明会に行った際、他大学の学生C子とたまたま一緒になり、待ち時間に3人でおしゃべりをしました。就職氷河期であることを嘆きつつ、そんなことばかり言っていられないと、志望企業について情報交換をし、お互いの就職成就を願い、別れました。時間にするとせいぜい10分ぐらいでしょうか。
C子が立ち去った後、2人は早速C子評を始めます。A子は、「C子さん、気さくだし面白い人だったね。出身は関西だって言っていたから、それで面白いのかな。人当たりも良さそうで、ああいう子だとどこの会社でも受かりそう」と好印象。一方のB子は「えっ!そうだった?私はそうは思わなかったな。自信満々で実は意地悪そうと思ったよ。有名大学だからってさりげなく大学名アピールするなんてイヤな感じ」と、2人の意見は正反対です。C子とは同じく初対面の2人ですが、どうしてここまで意見が食い違うのでしょうか。不思議です。
ここで、この違いがどこから来るのか考えてみましょう。会ったのはたった10分。それだけでC子がどういう人かなんてわかるわけがないわけですが。彼女たちの心をひも解いてみると、そこには、出会ったときに相手に抱く、ものの見方・感じ方が関係していることが分かります。A子は、C子が関西出身と聞き、その先入観からも面白い子だろうと思っているようです。一方、B子は、世間一般に良いと言われる有名な大学名を聞いただけで、何だか自慢気な人だと感じているようです。他の要因もありますが、どうやら、ここで相手の出身地や大学名といった分かりやすい情報が判断する際の大きな材料になっていることが見てとれます。それは一般的に「思いこみ」や「先入観」と言われているものです。
そういった思いこみや先入観はいったいどこから来るのでしょうか?それは、まず、相手の体型や髪型、服装、声の調子、表情といった見た目(外見)や、出身、出身校やついている職業などといった情報から抱く印象からくるのでしょう。A子が関西出身の人は面白いと出身地だけで思いこんでいるのはひとつの例ですが、他にも血液型を聞いただけで、例えば「A型はまじめだよね」などというのもよく起こる先入観の例のひとつに挙げられるでしょう。今あげたような世間一般に流布する、いわば杓子定規的な印象があなたが相手に抱く印象にどう影響しているでしょうか。
さらに、もう少し考えていくと・・・・このエピソードからはA子とB子さんの特徴が読み取れそうです。A子さんは、面白さやお笑いに敏感な人、B子さんは自慢とか学歴に敏感な人、といった感じでしょうか。つまりA子さんとB子さんの物事のとらえ方の特徴があらわれています。
このもの事の見方、とらえ方はどう作られていくのでしょう? それは、A子さんやB子さんが、それぞれ経験してきたことと言えそうですね。これまで出会った誰かとの間での体験や経験からの影響です。「あの時あそこで会ったあの人に似ているな」「こんな人とはこんな経験をしたな」というように、瞬時にこれまでに関わりのある、似ている誰かを探し、その体験を相手に映し出していないでしょうか。そこでは無意識にこれまでの経験を総動員させています。経験は人それぞれの歴史があり、その経験の中でどのように感じ、どのように心が影響されたかも人それぞれです。人にはそれぞれに「自分の枠組み」があり、その枠組みという心のフィルターを通して相手を、世界を見ているということになります。
さて、あなたは誰かと出会った時、相手をどう見るでしょうか。どういった材料に影響されやすいでしょうか?もしかして、「思いこみ」や「先入観」で、人づきあいの入り口で損をしていませんか?
とはいえ、皆がそんなにばらばらだと、人づきあいは難しくなるし、面倒くさいなあとなるかもしれません。しかし、違いがなく、皆が同じ方向を向き、同じようにものを考えていたらどうなるでしょうか。誰かが右を向けと言ったら右を向くというカルト集団のような世界はとても危険なことです。人のつきあいは、それぞれちがったものの見方をしているもの同士が付き合っていくことなのです。だからこそ人間はおもしろいとも言えるのではないでしょうか。
今回は出会った時からすでにそれぞれが自分の枠組みをもっていること、そこで起こっている「思いこみ」の影響について書きました。第一印象から、さらに一歩先に進んでつきあいが深まると、心の動きはより複雑となっていきます。その話はまたの機会に。
(K)
2012.12.15