23:からだが語る気持ちシリーズ3 「体と気持ち?気持ちと体?」
これまでの2回は、心の問題が身体の症状にあらわれることの例として、「頭痛」と「自律神経」についてお話してきました。これまで、心の中の出来事」の視点で身体の症状が出ているかのように書いてきましたが、そのように、一方向でのみとらえられることなのでしょうか?いったんここで立ち止まってみたいと思います。
まずは体内で何らかの変化が起こり、続いて気持ちに変化が起こり、精神面の症状として現れることがあります。うつ病や統合失調症と思われるような症状の背景に、甲状腺(首にあるホルモンを分泌する臓器です)の異常が隠れていることがあります。また、脳梗塞や脳出血のあとに、まるで人が変わってしまったかのように、性格に変化が起こる場合もあります。
わたしたちは、自分の精神状態に変化が起こったときに、自分を納得させる「物語」を必要とする傾向があります。「最近、調子が悪いのは会社のストレスがあったからかな」など、自らに生じていることに納得いくような物語や因果関係を作り出すのです。このことは、私たち治療者が相談に来られる方と取り組む心理療法の重要なプロセスでもありますが、一方では、急に元気がなくなったり、眠れなくなったとき、その人なりの「物語」があるように語られながらも、実は身体の病気が先行している場合があるのです。心の臨床の仕事に関わる者は、相談に来られる方の物語を共に創ろうとする傍ら、時に身体の健康状態に注意を向ける必要もあるのです。
今挙げたのは、「身体の病気が原因になる」場合でしたが、心の状態に影響を与える身体状態もあります。たとえば、女性の場合、月経周期によって気分や行動が左右される場合があります。月経前緊張症(PMS)が最近話題になることが増え、心当たりのある方も多いのではないでしょうか。いつもなら気にも留めないことにイライラしたり、甘いものがたくさん食べたくなったり、人によって症状は様々です。躁うつ病や統合失調症の方も、月経周期によって症状が悪くなる方もいるようです。閉経前後でみられる更年期障害でも、気持ちの沈みやイライラを認める場合があります。
また、はっきりとした仕組みがわかっていないのですが、気候の変化によって体や心に変化があらわれることもあります(おそらく気圧の急激な変化が血管を縮ませたり広げたりすることと関係があるのではないかと言われています)。冬になると元気がなくなって、夏になると活動的になる、という傾向におぼえがある方は案外多いのではないでしょうか。このことは、単に「寒いのキライ」というだけではない、体の内側での変化を伴っているようです。あるいは私たちの身体には冬眠するクマのようなリズムがまだ秘められているのでしょうか?
このように、身体の病気や、リズム、気候などで自分の精神状態が左右されている、と知ることの利点は何でしょう?身体の病気があれまずはその治療が優先されるでしょう。それ以外の身体のリズムや気候の影響をしっかりと知ることは、自分の気持ちとの「付き合いやすさ」を格段に上げることになります。「もうすぐ生理だから」、「急に寒くなってきそうだから」・・・「調子を崩すかもしれない」と予想して、ある程度心の準備をすることが出来ることでしょう。
このような場合に、心理療法は役に立たないでしょうか。そのようなことはありません。まず、身体の変化がある場合にも、その身体の変化から生まれる変化の心の「受け止め方」は十人十色。そしてその「受け止め方」がまた身体に影響を与えます。心と身体は双方が絶え間なく影響を与え合う間柄なのです。この「受け止め方」がどのようにできてきたのかを心理療法では共に考えていくことになります。「受け止め方」に変化が生まれたとき、心と身体の循環にも変化が生まれ、身体の症状すら変化する場合があるのです。その深い連関と変化に私たちはいつも驚かされるのです。
(鈴木)
2012.02.01